不確実な時代に、レジリエンス経営を。

レジリエンス:弾力

レジリエンス(resilience)を辞書で調べると「回復、復元力 (recovery)」、「弾力性 (elasticity)」と出てきます。

地政学リスク、パンデミック、為替変動など外的環境で、過去に経験のない事象が発生、出現した場合、否応なく、変化への対応を迫られます。

ただし、一つの疑問は「元に戻ることはあるのでしょうか?」

私たちワールドゲートは、レジリエンスを「弾力 (elasticity)」と捉えています。元に戻るかもしれないし、別の方向へ飛び跳ねる、さらに、その弾力は、毎回変化する前提条件によって予期せぬ方向へ変化します。

– 不確実事象の特性:前提の破壊

現代マーケットは、サプライチェーンのグローバル化、さらにテクノロジーの進展により、情報の広がりと選択肢が2次元的に広がり、複雑性から前例のない事象を生み出しています。

不確実事象は、過去の延長、経験則から完全に予測、把握できない状況や要素を指します。前提条件が確定している場合は過去のデータをもとに、確率を導き出すことは可能ですが、前提が変わる中、予測、頻度、影響度合いを計測管理することが困難です。地震予知が難しいのと同じです。地震により地殻変動が起こり、以前からのデータにおける前提が変わってしまいます。これは、データだけではなく、フレームワークも同じことが言えます。例えば、競合環境は、グローバル化とテクノロジーによって領域が破壊されるリスクと機会がもたらされます。

現行管理手法の限界:リスクと機会の個別管理

現行までの一般的なダウントレンドへのリスク管理と成長領域の経営戦略領域は、以下のように個別管理されてきました。部署でも総務、広報と経営企画、マーケティングなどで分別されていたのではないでしょうか?

リスクマネジメント領域

今までのリスクマネジメント、クライシスマネジメント、危機管理、事業継続マネジメント(BCP)に代表される、リスク領域の取り扱いは、発生前後、取り扱う内容の違いがありますが、ダウントレンドへの対応が目的だと分かります。

リスクマネジメント組織目標や成果に対して生じる可能性のあるリスクを識別、評価適切な対策を講じる。リスクの発生確率と影響の程度を最小限に抑え、目標達成確率を高める。
クライシスマネジメント予期せぬ重大な出来事や非常事態が発生した場合に、迅速かつ効果的な対応を行うための活動。組織が危機的状況に対処し、被害を最小限に抑えて、回復を促進する。
危機管理自然災害、公衆衛生上の脅威など、人々の生命や財産に対する即時の危険や被害を管理するための総合的なアプローチ。予防、緊急事対応、復旧などを含む。
事業継続計画(BCP)組織が災害や重大な混乱が発生した際に、業務を継続し、最小限の中断で適切なサービスを提供するための計画。予期しない出来事による損失やリスクを最小限に抑え、利害関係者への影響を最小化する。

 経営管理領域

組織や企業を適切に運営し、目標の達成を図るための活動やプロセスを指します。経営管理は、外部環境と内部環境リソース(人材、財務、物品、情報など)を調整し、組織全体の方向性や戦略を策定し、実行するための活動です。また、事業成長、機会獲得を目的とした主な活動は以下のマーケティング、イノベーションに大別できます。

マーケティング商品やサービスを提供する際に、競争領域における顧客のニーズや要求を理解し、それに基づいて戦略を立案し、商品やサービスの提供・販売・促進を行う活動。営業とのトレードオフを構築
イノベーション既存のリソースと新しい知を掛け合わせて、新たな社会的価値を生み出し、競合領域から脱却、独占を指向

■ 不確実事象の統合管理

– リスクと機会を経営戦略レイヤーで統合管理することが、レジリエンス経営管理:二律背反ではなく二律両

不確実事象が、自社にリスクと機会の両方をもたらす以上、管理領域を統合するだけではなく、時間軸、個別領域内の上振れ下振れ(例:事業計画の上方下方)、サプライチェーンの複線化など、一見、矛盾しているトレード・オフに見える側面を積極的にトレード・オン(統合)することが必要です。

ISOでも、リスクマネジメントの定義を変更しています。(リスクマネジメント* ISO3001参照)

目的に対する不確かさの影響として、好ましくない影響のみならず、予想外に好ましい影響と定義しています。

つまり、片方だけを個別管理していれば、左側通行車線を右目だけつぶって運転しているのと同じではないでしょうか?

– 不確実事象を複眼的視点で捉える必要性:利害関係者のリスクと機会は、自社と同じではない

記憶に新しいコロナ・パンデミックによる不確実事象は、明らかにダウンサイド・リスクとして社会活動を停滞させました。一方、自宅待機需要を機会と捉え、宅配サービス、DIY商品の躍進は記憶に新しいです。つまり、不確実事象を自社の専門的視点のみで捉えていると、不確実事象の方向性を限定的に捉えてしまうことになります。さらに、自社の機会は競合のリスクであることもあり得ます。一方、自社のリスクは競合の機会にもなる可能性があるのです。自社からの視点だけではなく、利害関係者の視点から不確実事象を捉える複眼的視点を常に内包していることが重要です。

不確実事象が突発的に発生した場合の対応はもちろんのこと、外的環境の変化に伴い、顧客価値も変化します。それに呼応するように、事業領域の参加プレーヤーも常に入れ替わっていくことが予想されます。現在の事業領域におけるマーケティングは、競合リスクを除外するためにも重要です。ただし、本来、企業は、競争ではなく独占を目指すべきですから、必然的に、独占領域を指向します。独占領域をイノベーションと定義するならば、自社コンピタンス(既存リソース)と新たな領域との掛け合わせによりイノベーションを誘発していくことになります。

さらに、不確実事象は、競合にリスクをもたらす場合、自社に機会となる可能性を示唆しています。不確実事象へのダウンサイドとアップサイドへのストリームを見極めながら、現在の競合領域とイノベーション領域を同時進行で実行・管理していく必要があります。

– 現状の事業(競合)環境と未来の独占領域の統合管理:マーケティングとイノベーションの同時進行

不確実事象が突発的に発生した場合の対応はもちろんのこと、外的環境の変化に伴い、顧客価値も変化します。それに呼応するように、事業領域の参加プレーヤーの関係性も常に変化していきます。現在の事業領域におけるマーケティングは、競合リスクを除外するためにも重要です。ただし、情報共有速度とテクノロジーが格段に飛躍した現在、自社の製品・サービスの賞味期限も比例して短くなっています。

本来、企業は、競争ではなく独占による不毛な消耗を回避しますから、必然的に、独占領域を指向します。独占領域をイノベーションと定義するならば、自社コンピタンス(既存リソース)と新たな領域との掛け合わせによりイノベーションを誘発していきます。ただし、未来のイノベーションは、時間が経過すると同時に、マーケティング領域に転換していきます。

つまり、断続的なイノベーションを積み重ねるのが現在、経営戦略の根幹ではないでしょうか。

– 未来洞察から起こりうる事象を想定する:未来のマーケット・ポートフォリオ

未来予測(forecast)は、過去からの延長で未来を指向します。過去のトレンドが現在を通過して未来まで継続していることが前提条件となります。ただし、定量的に前提を捉えようとする際に問題なのは、数学の定理が異なると予測値の結果も異なるということです。また、定理による予測が合っていたとしても、その定理が使える前提条件が存在しない場合には未来予測の活用は難しくなります。現代のビジネス環境を予測するのは、地震を予測するのと同じくらい難しいと言えるのではないでしょうか。

未来洞察 (foresight)は、主に仮説 (what if)から、「もっともらしい、もっともらしさ」から、シナリオプランニングを用いて、未来を洞察していきます。この手法は、自社の領域のみではなく、社会まで対象を広げて、影響度が高い変化要因を特定して、相互関係から、「ありそうな、ありうる未来」を絞り込んで、未来から現代まで逆算していきます。また、同時に「組織全体として納得性が必要」です。従って、前提条件として「なぜ(why)その仮説が有効か」を全体で納得性を担保するだけでなく、「仮説前提条件が変化した場合は、シナリオを書き換える」柔軟性も同時に、組織でコンセンサスを得ておくべきです。

– 不確実だからこそ、強靭な価値判断基準と変化への柔軟性が必要

未来洞察で、ありそうな未来、ありうる未来は、外部環境にフォーカスを当てていますが、内部環境からの視点として「ありたい未来」が必要です。未来を洞察した社会で、「自社がどうあるべきか?どのような存在であるべきか?」の意義を明確にしておくことです。また、不確実な事象へ対応する柔軟性だけでは、自社の価値を維持することができません。そのためにも、自社のフィロソフィー(理念)、規範を制定、再点検することが肝要です。DXが注目されていますが、自社の生産性を高めることばかりに注目が当たりますが、何に対して生産性を高めるのか、それは、「未来の社会(顧客)価値」です。価値を創造するための効率性であり、生産性を上げて付加価値が高まっていなければ本末転倒になってしまいます。

不確実事象の方向性を完全予測することが難しいからこそ、あらゆる側面を統合管理することで、「リスクを低減、予防する、また、機会を獲得、拡大する」

そのためには、柔軟性と強靭性を持ち合わせるレジリエンス経営管理が必要ではないでしょうか?