概要
「レジリエンス経営」とは、企業が変化の激しい時代において、強靭な判断基準と柔軟な対応力を兼ね備え、組織にイノベーションを誘発することで、非連続的な成功=新規事業開発を積み重ね、持続的成長を実現する経営手法です。
現代の課題
グローバル化が、サプライチェーンを伸長させ、テクノロジーが選択肢を増やしたことにより複雑性が増しただけではなく、様々な不確実事象が起きる頻度が増加しました。即ち、従来の市場構造や事業計画の前提が崩れ、計画通りに物事が進まないことが増えています。このような不確実な状況において、前提が固定化された経営管理だけでは持続的な成長を実現することが難しく、企業には環境変化を活かす柔軟性が求められます。
また、過去の延長線上だけでなく、未来の視点から逆算した戦略の必要性も増しています。過去の実績と未来の目標を統合し、企業の目的や方向性を明確にすることが求められています。このため、変化に対応するだけでなく、過去と未来を一体化した視点で新たなビジネスモデルや顧客価値を創造することが必要です。
ただし、単に変化に適応するだけでは企業のアイデンティティが揺らぎ、価値を見失う可能性があります。変化の本質を理解し、自社の目的と目標を統合した上で強く保つことが求められます。この本質を見極めたうえで、対極的なリソースを組み合わせることで、企業は強靭かつ柔軟な経営を行うことができます。
組織内外の統合
変化に対応する統合調整と、変化を生み出すための統合調整の2種類があります。
1. 変化に対応した後での統合調整:経営資源の総和から生み出される生産性(シナジー)=付加価値最大化(全体最適)
社内では、大小問わず、様々な変化に対応する必要性があります。そのため、各部門で変化に対応した後、独自性が高まります。また、組織生産性を上げるために、分業化が進むと、各部門での独自な方法が生み出されます。これにより、俗に言う「タコツボ組織」が生み出されます。このタコツボ組織を放置したままですと、生産性が犠牲となるだけではなく、顧客価値との乖離も生まれやすくなります。
2. 変化を生み出すための統合調整:矛盾を積極的に生み出し新たな付加価値(顧客価値)を創出する
変化を生み出すために、社内の各セクションで積極的な融合を図ります。これは、既存顧客の価値を向上する際に、自社のバリューチェーンで良く見受けられる手法です。一方で、新たな顧客自体を創出する場合は、どうでしょうか?過去と未来、社内と既存市場以外との掛け合わせにより、新たな事業が生み出されていきます。
上記以外でも、リスクと機会、自社と競合、過去と未来などの統合調整により、何を生み出していくかを明確にしていきます。
お客様から、「新規事業開発」、「システム導入」について相談を受けますが、以下のような課題が組織として見受けられます。
新規事業開発の課題:知識を共有(ナレッジマネジメント)の大切さ
新規事業開発は、不確実事象が頻発する現代では、既存のビジネスモデルを補完するだけではなく、経営資源を活用したメインビジネスとして捉える必要性が高まっています。つまり、既存ビジネスがいつ賞味期限が切れるか分からない現代では、企業の成長を持続させるための必要不可欠な要素です。既存顧客価値を捉え続けるだけではなく、全く新たな顧客や販売チャネル、物流チャネルを開発することで、新たな製品やサービスのローンチにつながります。つまり、変化へ対応をしながら、同時に変化を生み出す経営が肝要です。
既存マーケットへの対応として、変化へ対応することと同時に未来への変化を生み出していく。一見、矛盾しているようですが、共通していることは、「統合と調整=掛け合わせ(トレード・オン)」です。変化対応は、社内のリソースを全体最適させる、変化を生み出す新規事業開発は、社内と社外、もしくは、社外同士を積極的に掛け合わせることで新たな価値を生み出しています。つまり、社内に、情報を掛け合わせる、全体最適する企業文化が備わっていなければ、新規事業開発時にも、情報の掛け合わせが生まれにくいはずです。ですから、出島と呼ばれる別働隊で、新規事業開発を促すのですが、それでは、新たな事業開発をいつまでも本流として事業の柱にするのが時間がかかってしまいます。
システム導入の課題:付加価値を定義した上で、全体最適化視点で生産性領域を捉えられているか?
1. 部分最適化の深化: 外的環境への変化に対応する中で、内的環境の統合や調整が不足し、各部門が部分最適化に陥る傾向があります。これにより、全体最適の視点が失われます。
2. 生産性向上の難しさ: 組織全体がバリューチェーンとして統合されておらず、生産性領域の前に、バリューチェーン全体から生み出される付加価値が明確化されていないと、何をシステム化するべきか、現在のシステムから取捨選択すれば良いかが曖昧になります。
3. 顧客価値の不明確さ: 現在の延長線上での顧客価値だけを生産性領域でカバーするべきか、それとも、未来の顧客価値を生み出す生産性も考慮するのか?To Beを定義できず、As isで現状の業務フローを把握しても、そこで、システム導入の目標が定まらない場合があります。
4. 投資判断の複雑化: システム導入によって生産性を向上させようとする一方で、自社の工場新設、建設、移転、設備導入、更改、社員採用、業務委託などの未来への先行投資領域も同時に考慮されます。ただし、これらの検討課題は未来から逆算される必要があり、過去の延長線上のシステム導入の考え方だけでは「本当に未来にも現在の延長線上があるのか?」という問題が浮かび上がり、結果としてプロジェクトが中断するケースが見られます。
レジリエンス経営の鍵
レジリエンス経営の鍵は、確固たる目的意識のもとで、変化に応じてバリューチェーンを継続的に調整統合し、対極的なリソースを組み合わせることで、強靭かつ柔軟な企業運営を実現することです。この強靭性と柔軟性の融合が、不確実な時代における成功の鍵であり、レジリエンス経営の核心です。