不確実な時代において、本質を見極め強靭な判断基準を持つ一方、対極的なリソースを掛け合わせることで柔軟に対応することで、非連続的な成功を積み重ねながら持続的成長を実現する経営手法です。
既存の市場構造などの前提から導き出された事業計画、実行計画は、技術革新や国際紛争などの予測不能な出来事が頻発する現代では、これまでの前提条件が崩れ、計画通りに進まないケースが頻発しています。従来の経験と経営管理だけでは持続的な成長を目指すのがますます難しくなり、企業には、環境変化への柔軟性が求められます。
ただし、単に変化に対応するだけでは、企業のアイデンティティや判断基準が揺らぐだけでなく、変化の中で企業価値を見失う危険性もあります。そのため、市場の変化に対応しながらも、変化の背後にある本質と自社の存在意義を深く理解し、企業の目的を強靭に保つことが必要です。
さらに、企業内の異なる専門領域を統合するだけでなく、企業外のリソースやパートナーとも積極的に協働し、外部の知見や技術を取り入れることがイノベーションを促進し、新たな価値を創出する鍵となります。例えば、リスク管理と経営企画、マーケティングと未来予測といった領域を超えて、外部とのパートナーシップや技術導入を通じて、変化する環境に対応しながら新しい顧客価値を生み出すことが可能です。
レジリエンス経営の鍵は、確固たる目的意識のもとで、変化に応じてバリューチェーンを継続的に調整し、対極的なリソースを組み合わせることで、強靭かつ柔軟な企業運営を実現することです。この強靭性と柔軟性の融合こそが、不確実な時代における成功の鍵であり、レジリエンス経営の核心です。
不確実事象の統合管理: ピンチとチャンスの両利き経営
不確実な時代、環境変化を正しく認識した上で、リスク回避、機会獲得を判断、対応することが現代企業で求められます。そのためにも、経営資源の入れ替えと再配分により、ビジネスモデルを積極的にトランスフォームしながら進化適応できるかが問われています。
今までのリスクマネジメントと経営戦略は、定量的な管理、また、それぞれに対応領域が分かれていました。現在の不確実事象は、今までの過去からのデータ、経験を無力化する一方、管理領域が相互に混在しています。これは、不確実事象が何に対して、どのような影響を及ぼすかを事前に想定困難が理由に挙げられます。
例えば、パンデミックは、飲食店に打撃を与えましたが、宅配ビジネスへは機会を提供しました。さらに、パンデミックは通常、リスク管理の分野ですが、ビジネスモデル転換は経営戦略(マーケティング、イノベーション)領域です。不動産業界では、リモートによりオフィス需要は低下しましたが、リモート対応のための住宅リフォーム需要は伸びました。つまり、一つの不確実事象に対して、リスクにも機会(戦略領域)にも両方対応できるレジリエンス経営が、ニューノーマルが常態化する時代に必要です。
学習モデル:不確実事象を適切に判断して対応する
不確実事象が、リスク、機会、また両方(乱気流)を発生させる中、以下の学習ループを回しながら事前検知精度、異なる不確実性への適応力を上げていきます。
- 事前検知:不可能な場合もある
- 認識する:起こっている不確実事象を正しく認識する
- 判断する:リスク、機会、乱気流かを見極める
- 意思決定:とるべき選択肢を決定する
- 対応する:標準化で対応できるか判断した上で、新たな対応、ビジネスモデルをトランスフォームする
- レビュー:対応方法の振り返り、事前検知の精緻化
不易実行:価値判断基準と判断、行動評価を首尾一貫する
「変化へ臨機応変に対応する。」と言葉では表現するのは簡単ですが、組織全体で対応するのは難易度が高いのが現実です。変化に対応するためには、価値基準(目的)があり、その基準を組織全体、また、部門、階層で保持していることで、初めて変化への対応が可能となります。
- 企業理念
- オペレーション標準化(ルーティン)
- ブランディング
上記の会社全体の価値基準と共に、オペレーションで実行、結果へ結びつけるために評価基準と連動させます。
- 全社的な財務価値:シンプルなKGI/KPI
- 人事評価:価値基準をもとに、判断の正確性と対応への評価
未来洞察:「もっともらしさ」と「ありたい姿」を調整、統合していく
不確実事象は、未来予測の前提を書き換えるインパクトがあります。例えば、地震予知は、同じ震源地で発生しても地殻変動により前提が変わるため、過去のデータを無力化してしまいます。そのため、過去からの延長ではなく、未来から洞察する方法が注目されています。未来洞察は、ありそうな、ありうる未来を社会の大きな要因を抽出して、仮説検証をしていきます。また、モニタリングとして、既存顧客マーケット、顧客など、既存事業領域とのコミュニケーション、さらに、遠心的に枠を広げるイノベーション活動と同期化させることで、変化のシグナルを受け取ります。
以下、未来洞察の大まかな手順です。
- 未来予測:既存業界が現在から未来への予測
- マクロ未来観:社会変化仮説
- ミクロ未来観:自社領域の仮説
- 未来像:自社のありたい未来
- 統合:未来観と未来像の統合
- フィロソフィー:パーパス、標準化
- 戦略:イノベーションモデル
- 実行:経営資源の再配分、組織改革
- 進化適応:イノベーションの推進
- 再調整:未来像の検証
「過去からの延長」と「あるであろう未来」
未来を洞察して大きな変化要因から逆算してマイルストーンを管理すると同時に、現在の延長が続くことも想定するべきです。つまり、未来予測と未来洞察のどちらかではなく、二項両立が必要です。ただし、慣性の法則が働くので、どうしても過去からの延長であるフォーキャストモデルが組織内部で重用する傾向にあります。
既存事業領域の競合ベンチマークを中心にするフォーキャストと未来の顧客マーケット(社会)から重要イベントを抽出して独占領域のありたい姿からバックキャストとをトレード・オンして管理していくことがレジリエンス経営管理の骨子となります。
レジリエンス経営は、以下の課題を解決します。
- 変化の兆しを捉えられず、何に影響があるかをシミュレート、準備ができていない。
- 社員が自社の存在意義や全社目的を理解しておらず、個別に判断できない。
- 社内外の変化対応への積み重ねにより、分業、個別ルールが深化し、全体最適がなされていない。
- 既存の枠組みや規定、ルールが更新されていない。
- 戦略とリスク管理が統合されていない。
- 顧客価値の変化をキャッチアップできない。
- 全社の付加価値を理解できていないため、生産性向上するための業務改善、システム導入が進まない。
- 新規事業開発を誘発する仕組みが組織内にない。